2000年3月18日
下垣内洋一様
日暮里富士見坂を守る会 代表/小川幸男
拝啓 早春の候、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
私どもは、東京に唯一残った富士山の全景が望める富士見坂
(荒川区西日暮里3丁目7〜8の境) の眺望を、次代に伝えるために活動をしているものです。
すでに、ご高承のことと存じますが、
現在、御社(NKK様)の子会社である日本鋼管不動産(株)様が本駒込に建設中の建物が、日暮里富士見坂からの富士山の眺望を阻害する事態になっております。
富士山は江戸以前より信仰の対象でした。昭和40年頃までは23区内でも比較的多くの所で、地上から富士山を眺望することが出来ましたが、その後、次々と富士山の眺望場所は消滅してしまいました。そしてとうとう、かつての江戸市内で、地面に立って富士山を眺望できるのは、日暮里富士見坂が最後の場所になっています。
その唯一残された眺望を遮る形で、マンションの建設工事が行われています。この建物は文京区本駒込3丁目1-1、敷地242u、13階建て(38.43m)のワンルーム分譲マンションで、現在7階まで鉄骨が立ち上がり、その様子は新聞・TV・雑誌を通じて何度となく報道され、多くの市民の注目を浴びています。
日暮里富士見坂の眺望は、研究者によって詳しく調査報告書がまとめられており、本郷通り沿いでは9階までの建物ならば富士山の眺望の保全が可能です。
私どもでは昨年末より、日本鋼管不動産(株)に、9階への高さの変更を重ねてお願いしてまいりました。計画の変更は販売価格に変更料を加えた損失金の支払い
(4億5千万円)、或いはビルの購入 (12億円) 以外には考えられないとの御返事を、担当部長様より伝えられております。これは4億5千万円 (あるいは12億円)
で、「富士見坂の眺望」をお売りになることと理解していますが、残念ながらこの金額は私どもの手に負えるものではありません。
奇跡的に残された日暮里富士見坂からの富士山の眺望を保全し、未来に伝えることは、貴重な風景遺産を後世に残すことにほかなりません。
御社の環境事業へのご尽力、フィランソロピー、メセナに対する活動はマスコミの報道やホームページなどでうかがっております。そうした環境保全を企業の柱に掲げられる御社に、富士見坂の眺望を保全して頂きたいのです。この貴重な都市景観を次代に伝えるご英断をして頂けたならば、その社会的波及効果ははかり知れません。
日本鋼管不動産(株)様のお話では、4月2日に鉄骨を一気に13階まで立ち上げるそうです。もはや一刻の猶予もありません。とりあえず、9階で工事を中断し、ともに解決策を見いだすための時間を与えてくださいますようにお願い申し上げます。
以上のような事情をご理解いただき、社長様と直接お話できる機会を設けてくださるよう、切にお願い申し上げます。その折りには荒川区長、助役も同席を希望しております。どうかこの問題を先送りされることがありませんよう、重ねてお願い申し上げます。
ご多忙のこととは存じますが、至急ご返事を賜りますよう、お願いいたします。